アヤソフィアに関する発表
トルコのエルドアン大統領は、2010年7月10日、世界的に有名な建造物であるアヤソフィアをモスク(イスラム礼拝所)として利用すると発表したとAFP通信など複数のメディアが伝えていました。
元々アヤソフィアはモスクとして使用されていた時期もあるので、突拍子もない話と言うわけではありません。
ただキリスト教国、特に隣国ギリシャからは怒りの声が上がっているとAFPは伝えています。
アヤソフィア
アヤソフィア(Hagia Sophia)はイスタンブールを代表する歴史的建造物の1つです。
中東を代表する歴史的建造物と言っても良いでしょう。
ユネスコの世界遺産にも登録され、世界中から多くの観光客が訪れる「イスタンブール歴史地区」の象徴的存在でもあります。
アヤソフィアは6世紀に東ローマ帝国(ビザンチン帝国)のキリスト教の大聖堂として建てられ、その後オスマン帝国の時代にイスム教のモスクとして使われるという稀な歴史を持っています。
更に1934年からは博物館となり、現在に至っています。
イスラムの伝統を重視する政策
エルドアン大統領が率いている公正発展党(AKP)は、イスラムの伝統を重視する政党と言えます。
その政策方針の1つとしてアヤソフィア博物館をモスクに戻すことを検討していました。
これを受けてトルコの国家評議会は、アヤソフィアの博物館としての地位を取り消し、アヤソフィアをモスクへと戻す道を開きました。
国家評議会は不動産権利証にはアヤソフィアがモスクとして登録されていると指摘し、これを根拠に1934年になされたアヤソフィアを博物館とした閣議決定を全会一致で無効としました。
これを受けてエルドアン大統領は、7月24日にアヤソフィアで再モスク指定後では初のイスラム礼拝が行われると発表しています。
併せて大統領は、アヤソフィアはモスクとなってからもイスラム教徒以外の国民や外国人に対しても門戸が開かれると明言しました。
米国は反発
しかしながらこの決定に対しては、キリスト教国を中心に欧米諸国で反発が起こっています。
7月1日には、米国のマイク・ポンペオ国務長官がトルコのエルドアン大統領に対して、アヤソフィアを今後も博物館として維持する様に要請したことを明らかにしました。
信仰の伝統と多様性のある歴史の尊重に深く関わってきたアヤソフィアを、引き続き博物館として維持するように強く要請したのです。
かつてはキリスト教の大聖堂でもあったアヤソフィアの役割が変えられることについては「信仰と文化が異なる人々の間にかかる橋として、現在希少な存在を傷つけることになる」との見解を示しています。
こうした要請に対してトルコ外務省が「意見を述べることは自由」としながらも、トルコの主権事由に警告する権利は誰にもないとの見解を述べたとAFPが伝えています。
欧州やユネスコも反発
欧州や国際機関の間でも利用用途を変更しないよう求める声が大きくなっています。
ギリシャでは、文明世界へのあからさまな挑発だと更に強い口調での反発が起こっています。
隣国によるキリスト教社会への挑発的行為と受け取る人も少なくないようです。
世界遺産を認定しているユネスコも、トルコ政府が事前協議なしにアヤソフィアの用途変更を決定したことに遺憾の意を表明しています。
経済的な問題
宗教的な問題は外部の人間には簡単に善し悪しの判断ができませんが、経済的な課題を指摘することはできます。
まず気になる問題は入場料収入の扱いの問題です。
アヤソフィアがモスクに変わることで、現在徴収している入場料収入をどうするのかという問題が生じるのです。
モスクとして利用するということになると宗教施設になるので、一般的な感覚では無料と考えるのが普通です。
実際、アヤソフィアと広場を挟んで対面にあるブルーモスク(スルタン・アフメト・ジャーミィー)は入場料を取っていませんし、オフィシャルショップもありません。
※ブルーモスクでは寄付を受け付けています。
モスクとなったアヤソフィアで入場料を取ると、ブルーモスクとの整合性はどうなるのかという問題も生じてきます。
アヤソフィアはイスタンブールでも屈指の人気観光スポットであり、入場料収入もミュージアムショップの売上も非常に大きいのです。
ミュージアムパスにも影響が
もちろんモスクになることで多大な寄付収入が上がることは予想できます。
ただし一方ではイスタンブールミュージアムパスなどにも影響が出てきます。
イスタンブールを訪れる観光客に非常に人気の高いミュージアムパスを購入すれば、アヤソフィアを含む各施設に無料で入場できます。
アヤソフィアが無料になれば、ミュージアムパスもそれに応じて料金を下げることを余儀なくされます。
またそもそもミュージアムパスは、実際は料金的にはそれほど大きなメリットがあるパスではありません。
多くの人がミュージアムパスを買う大きな理由は、各施設で行列に並ばずに済むことにもあります。
一番入場時の行列が多い施設であるアヤソフィアがモスクになれば、ミュージアムパスの対象施設では無くなり、メリットが大幅に下がるのです。
こうした減収はイスタンブール市の収入減にも繋がるものです。
この問題をどう解消して行くかには注意していかなければいけません。
宗教的な決断なので経済問題を持ち出すのはナンセンスなのかも知れませんが、トルコの経済状況は相当に厳しい状況に置かれています。
大変な利益をもたらす素晴らしい歴史施設だけにもったいない気もしてしまいますね。
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